深呼吸で心が落ち着くワケ〜自律神経と心拍変動とストレス反応
こんにちは、やま茶です。
実は最近とてもハマっている本がありまして、
かなり分厚い本なんですが、情報量と質が素晴らしくて熱中しております。
こちらになります。
今回は、この本の内容のごく一部を取り上げて、深呼吸の効用とその裏で何が起きているかについて書いていきたいと思います。
・自律神経と深呼吸
・自律神経と心拍変動
・自律神経とストレス
・PTSD患者における心拍変動とストレス反応
の4点を掘り下げて解説したいと思います。
深呼吸が心を落ち着かせる仕組みを知ることで、ストレス感じてるな→深呼吸をしてみようと、深呼吸をストレス対処として取り入れる機会が増えれば嬉しいです。
自律神経と深呼吸
自律神経は、交感神経と副交感神経からなり、体全体にこの両方の神経は行き渡っています。
この交感神経・副交感神経はどちらか一方が優位に活動しており、生命活動の大事な役割を担っていることはもうご存知ですね。
(汗腺や立毛筋は交感神経のみになりますが例外中の例外です)
parasympathetic:副交感神経
sympathetic:交感神経
茶色い線は自律神経それぞれを表しています
上図のように自律神経はそれぞれ各臓器で重要な生命活動の機能を担っています。夜間は副交感神経優位、日中は交感神経優位に活動します。また、文字通り、”自律”しているのです。私たちの意志では動かせません。
交感神経・副交感神経どちらが良い悪いとかではなく、相対的にバランスがとれていることが理想とされています。
このバランスが乱れると、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくできていないということなので、期待されない方の神経の活動が優位なままになり不快な症状が出てしまいます。
例えば、心臓を例にあげますと、緊張状態が続くと、交感神経が過剰に活動し、”動悸”や”息切れ”といった症状がでます。
この時、”緊張している”と感じるのは脳ですから、脳から自律神経へシグナルが伝達され交感神経の過活動が起きているわけです。
そのほかにも、緊張してお腹が痛くなったり、疲れが溜まってめまいを感じたり、ストレスが続いて立ちくらみを感じることが多くなったりなど、
自律神経症状で悩んだことがない人はほぼいないと思います。
そして、強調しておきたいのは、自律神経と接続している脳(視床下部・脊髄)だけが自律神経に働きかけることができる、わけではありません。
普段の生活では意識しませんが、私たちは、私たちが意識してできる特定の動作を介して自律神経へ働きかけることができるのです。
それが深呼吸です。
息を吸うとき、交感神経系が刺激されて心拍数が増加します。一方、息を吐くと副交感神経系が刺激され、心臓の鼓動は遅くなります。
呼吸は意識して調節できますね。
2秒間息を吸って、8秒間ゆっくり息を吐くを繰り返し、息を吐く時間を長めにとることで、呼吸を通して副交感神経系を刺激できるので交感神経の過活動を抑えることができ、動悸や息切れの症状は和らいでいくのです。
自律神経と心拍変動(HRV ; Heart Rate Variability)
これまで自律神経と深呼吸の関係について説明しました。
息を吸うとき、交感神経系が刺激されて心拍数が増加。一方、息を吐くと副交感神経系が刺激され、心拍数は遅くなる、この関係です。
息を吸ったり吐いたりすることによって交感神経と副交感神経の活動にリズムが出てきますので、それに同調するように心拍の変化も一定のリズムを取ります。
この心拍の変化のことを、心拍変動と言います。
このように、自律神経と心拍数は密接に関わっているので、
自律神経の活動は心拍変動で評価できます。
最近では、スマホアプリでも心拍変動を測定でき、自律神経活動量をみることができます。
自律神経の活動は血液検査等で簡単には測れません(リンパ球の数でわかるらしいですが、健康診断の採血ではそこまで測りません)ので、心拍変動は、自律神経のバランスを知る数少ない指標であり、簡単に測定できる指標でもあります。
交感神経活動が増えると心拍変動は減り、副交感神経活動が増えると心拍変動は増加すると言われています。
自律神経とストレス2)
普段私たちは、ストレスを感じても身体に症状として出ることはありません。
それは自律神経系がしっかり機能しているからです。
しかし、ストレスが多すぎると、ストレスは脳の中にとどまることはできず自律神経系を介して身体にまで影響を及ぼします。自律神経失調症とはこの状態を指します。
先ほど例にあげたように、一時的な強い緊張では動悸や息切れとして自律神経症状は出るかもしれませんが、自律神経系自体にはそこまで大きなダメージはありません。
しかし、長期にわたりストレスが多い状態(交感神経過活動状態)が続いていると、自律神経系がさらにダメージをうけ、すぐに修復できない状態になります。
ここまでくると、ちょっとしたストレスでも身体に不調がでやすくなったり、動悸が続いて心疾患へと発展してしまったりなど各臓器に慢性的で深刻な影響が出てしまいます。
このように、軽い症状から重い症状まで自律神経失調症には症状の程度に幅がありますが、この状態が長期間に及ぶと身体への負担も重くなり、がんや認知症、心疾患など、深刻な病気の原因になり得ます。
不調のサインとして早期に対処できれば、ダメージも小さく済むので、自律神経症状について知っておくのをオススメします。
また、自律神経は人間らしさを表現する心理面を司る脳の高次機能にも関わっています。
詳しくは、自律神経は、気分や記憶、情動制御に関する脳の辺縁系機能の基盤を維持しています3)。
自律神経のバランスがうまく保たれていれば、人間関係の中で侮辱されたと感じたとしても、何が起こったのかを冷静に評価できたり、衝動や情動も適切に制御することもできます。
まとめると、自律神経のバランスが乱れていると、精神的にも身体的にも不調がでやすくなります。
逆に言えば、自律神経のバランスがうまく整っていると、ストレスにもうまく対処しやすくなります。
PTSD患者における心拍変動とストレス反応
PTSD (Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害) は、簡単に説明すると、過去に経験したトラウマ体験を日常生活の中のトリガーをきっかけに再体験してしまう疾患です。
恐怖体験を思い出すとPTSD患者は、過覚醒状態(交感神経過活動状態)になります。
以下は、PTSDの過覚醒と心拍変動との関係を研究した論文です4)。
自律神経と心拍変動の箇所で述べましたが、交感神経活動が増えると心拍変動は減り、副交感神経活動が増えると心拍変動は増加することを繰り返し強調しておきます。
P(参加者):31人のPTSD患者(うち2人は部分的PTSD)
E(暴露・介入):中立な脚本のイラストとトラウマティックな脚本イラストを参加者に2分間見てもらう
C(比較):ベースラインのRSA(Respiratory Sinus Arrhythmia = HRV;心拍変動)が高かった人と低かった人
O(結果):全参加者において、中立的なイラストからトラウマなイラストへ変更後、有意に心拍数が増加した。そしてRSAも有意に減少した。RSAが低かった群は、RSAが高かった群と比較して心拍数増加時間は延長し、心拍数の回復はベースラインのRSAに負の相関を示した。
この研究からわかることは、心拍変動が低い人たちは、心拍変動が高い人たちと比べて、PTSDの過覚醒の状態が長く続いたということです。
やはり、心拍変動が低いということは、自律神経系のバランスが乱れやすいということなので、衝動や情動を制御する能力が低いということが示唆されます。
このことから、ストレス耐性を上げるには心拍変動を高めることが有効だと言えます。
心拍変動を高める方法としては、深呼吸の他にもヨガ、瞑想があります。いずれも副交感神経を高めることで知られていますね。
1分間に9回未満(1回あたり7秒以上)の深呼吸を20分継続した後に心拍変動を測定すると、心拍変動の増加が1分間に9回以上(1回あたり7秒未満)の深呼吸と比較して効果的であったという文献もあります5)。
以上より、深呼吸をするなら1回7秒以上が効率的に心拍変動をあげれるということですね。
ストレスを感じたらストレス源を取り除くのが1番有効な手段ではありますが、
補助的な方法として深呼吸をすることで、心拍変動を高める(副交感神経を高める)方法も有効だということがわかりましたね。
心拍変動、奥が深そうです。また、面白い文献あれば記事にしたいと思います。
以上、やま茶でした。
参考文献・参考図書
1) ベッセル・ヴァン・デア・コーク著, 柴田裕之訳『身体はトラウマを記録する〜脳・心・体のつながりと回復のための手法』紀伊国屋書店, 2016.
2) 渡辺正樹 著『自律神経失調症を知ろう』南山堂, 2016.
5) P Lehrer et al. Zazen and Cardiac Variability. Psychosom Med. Nov-Dec 1999 ; 61(6):812-21.